2017年7月 横浜市長選挙でどの候補者に投票すべきか検討してみた
先日メディアで盛り上がりを見せた都議選に対し、極めて盛り上がりに欠ける横浜市長選挙。2017年7月12日現在、3名の立候補者が発表されていますが、果たしてどの人の公約が一番良さそうなのかを、横浜市の財政状況を基に検討してみました。
1. なぜ財政状況を基に検討したのか?
市政を世帯の生活に置き換えて考えてみると、収入が支出を上回ることが生活を安定させるための基本となります。借金が増えると収入からの借金返済比率が高まり、他の支出を減らさざるを得なくなり、結果、生活は苦しくなり予算内で出来ることはごくごく限られてしまいます。そのため立候補者が公約に掲げることが、現在の財政を踏まえて本当にやるべきことなのか、それは横浜市の財政面にどう貢献するものか見極めてみたいと考えました。そのため市民へのベネフィットは今回度外視していることをご理解ください。今度の選挙での争点(とメディアが伝えているのは)は、カジノ誘致の是非と、中学校給食だそうです。
3候補者の公約(あいうえお順)
- 伊藤大貴氏
横浜市長選2017政策集「主要政策」 | 横浜市会議員(緑区) 伊藤ひろたか
- 長島一由氏
https://www.nagashimakazuyoshi.com/policy
候補者の皆さま、WordとPowerPointの使い方が下手すぎで逆に素敵ですw
2.横浜市の財政状況
今回は 横浜市財政局 横浜市の財政状況 から”H27年度の財政状況”というPDFから、以下をピックアップ。H27年度はこの通り。
- 歳入 1兆5,269億円
- 歳出 1兆5,013億円
- 市の借金 3兆2,313億円 (正式名称は”一般会計が対応する借入金”です)
歳入内訳
一番多く占めるのが市税でその内訳は次の通り。
横浜市は昔から企業誘致を頑張っていますが、法人市民税は市税全体の8%でまだ物足りなく、個人市民税と固定資産税に頼っている状態であることが分かります。この先国全体の人口が減っていく中で、横浜市も例外なく市民の数は減るわけで、それに伴い個人市民税も徐々に減少していくことになります。
因みに国立社会保障・人口問題研究所の日本の地域別将来推計人口 から、横浜市の労働力として個人市民税を多く収めるであろう15歳以上64歳の人口予測を切り取ってみると、2015年の238万人が2040年には189万人(-20%)まで減ると予想されます。雑な言い方をすると、この年代からの個人市税が5分の4になってしまう可能性があります。
以上のことからも、市民の数の減少を緩やかに抑えるための施策と、個人市民税の減少を補うため他の歳入を増やす施策が必要であると考えられます。
3.横浜市の借金の返済状況
- 市の借金 3兆2,313億円 (正式名称は一般会計が対応する借入金)
下のグラフはH27年度の財政状況 9ページから引用しました。H15年の借金を3兆9,617円が12年間で約7,000億円返済して、H27年には3兆2,313億円まで減りました。
1年あたり平均約609億円ずつ返済。
グラフではH15からH27にかけて借金がすごーく減ってるように見えるんですが、実は左軸の下部分がカットされてるのがみそ。
目盛りを直すと本当はこうなるはず。劇的に減った感はなく、完済までの道のりが遠いことが分かります。(2017年7月18日追記:年号が一部間違ってたため修正しました。それに伴い平均返済額と返済年数も修正し、結果返済年数は46年から53年に増えました)
これまでのように年平均 約609億円づつ返済した場合でも、あと53年もかかる計算になります。その間に年号が2回変わるかも。
更に人口減少で歳入が減るので年平均609億円の返済もペースが鈍化すると予想できます。
4.歳出の内訳
H27年度の財政状況のPDFでは、内訳がカラーでなくて分かりにくいため H27 年度ハマの台所事情 から引用しました。
社会保障(福祉・保険・医療)が支出の29%と最も多く、経済の発展には7.2%が振り向けられています。前者は高齢化により今後も多くの予算が必要となる一方で、歳入増加のための活動にかけるお金がやや少ないようにも思えます。
社会保障4経費の内訳はこちら
予算配分としては、子育て支援に一番多く予算が割かれています。これは子供を預けて働く女性の数が増えることで税収も増えることが考えられるため必要な施策だと思います。
中学校給食は既に横浜市以外や都道府県では実施していることなので、ベネフィットとしての競争力がないのでこれを目当てにした市外からの人口流入は見込めず、代わりに市が負担するにしろ親が負担するにしろ支出の増加は避けられません。
各候補者が挙げている中学給食の拡充やハマ弁は、市民数の増加や個人市民税増加にはつながりませんが、働く現役世代の日常的な負担を減らす意味ではNice to Haveだと受け止めています。
つまり市民の減少を緩やかに抑えるにはこの施策はあまり効きそうになく、今回選挙の争点としては重要度が低い公約だと考えます。
因みに横浜市の中学生の数、ハマ弁の費用、年間授業日数を試算してみると、年間64億円が必要です。
横浜市の市立学校学生数
http://www.city.yokohama.lg.jp/kyoiku/toukei/genkyo/28/data28/p33-38.pdf
ハマ弁オフィシャルサイト ハマ弁の利用率は2017年4月速報値で1.1%。
認知度が低いのか、ニーズがないのか、家庭のコスト負担が嫌われているのかなど分析が必要ですね。仮にニーズがないのに給食無償化が市長選の争点として重要と考えるなら的外れの施策になる可能性があります。
学校へ配達「ハマ弁」、利用率1% 中学給食ない横浜市:朝日新聞デジタル
H28年度の授業日数は207日。その他休暇には夏季・冬季・春季休暇、開港記念日を含みます。その他休暇が土日に被る場合はカウントしていません。
今回調べてみて驚いたのが生活援護費が2番目に多かったことです。生活保護については、企業誘致などで就労機会が増え受給者が減り、転じて納税者が増えることに繋がるとよいのですが、このまま定常的に毎年支出が続き他の施策に予算が回らないのは良くないため、働ける生活保護者の就労率を大きく改善するための具体的な施策が必要ではないかと思いました。
あと、こんな財政状況の横浜市の市長給与は全国1位の月当たり159万円(2016年)。大阪の橋下さんが大阪市長だったときは、財政立て直しのため自身の給与を従前の42%カットしたそうですが、今回の候補者で市長給与カットを掲げている人はどまだいないようです。別にただ働きしてほしいとは思いませんが、掲げる政策に対するROIが妥当なのかいつか検証してみたいものです。
5.どのように歳入を増やし、借金を返済すべきか
収入(=歳入)を増やすために、横浜市では企業誘致や観光振興に力を入れています。
残念ながら現在市民税のうち8%しかない法人税収入を増やすため、更なる企業誘致を進めることも重要ですが、横浜市の企業誘致実績や企業移転が完了するタイムラインに時間がかかることを鑑みると短期かつ劇的に企業数が増えることはなさそうです。しかしこれは地味に頑張るしかないと考えます。
観光客を誘致し市内に落ちるお金を増やすための観光振興も、現時点で歳入を大きく伸ばすには至っていませんが、他に方策がない以上ここも地味に進める必要があります。
(2017年7月18日追記 :外国人の来日客数(訪日外客数)は834万人(H24) から2,404万人(H28)に増加しており、過去5年の対前年度比平均は31%です。
国土交通省 観光庁の出している訪日外国人の消費動向(H29)をみると、外国人の来日目的が日本的な文化や食事としている方が多いため、異国情緒や中華街が目玉の横浜市はコンテンツの面で苦戦を強いられていることが窺れます。そのため外国人観光客を上手く取り込むような具体的な政策提案があるのかも一つの見どころにしたいと思います。)
日本政府観光局 年別 訪日外客数, 出国日本人数の推移
http://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/marketingdata_outbound.pdf
横浜市内の地域別外国人延べ宿泊者数年別推移(H22~H28)
http://www.city.yokohama.lg.jp/bunka/28gaikokujinnobe.pdf
観光庁 宿泊旅行統計情報
http://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/toukei/shukuhakutoukei.html
今回の市長選ではカジノ誘致(本当はIR 統合型リゾート誘致)が争点のひとつと言われてますが、私は人口減と高齢化によるコスト負担を補いつつ、借金を返済するに足る財源を確保するために出てきたチャレンジ企画がカジノ誘致なんだと理解しています。
歳入を大きく増やすための取組を政策に落とし込み財政状況を改善するには、具体的なシナリオが必要なので、カジノ誘致反対を唱える候補者が、具体的かつ実行可能そうな対案を掲げているかも見どころです。
横浜市によるIR誘致検討内容の詳細が公開されていて、これによるとIRによる税収効果は年間約61億円と試算されていました。
”IR(統合型リゾート)等新たな戦略的都市づくり 検討調査 報告書”
http://www.city.yokohama.lg.jp/seisaku/seisaku/irhoukoku.pdf
(この中身をみると、何でIRをやるのかという背景説明として第5章の横浜市の現状に
少子高齢化・生産年齢人口の減少、財政状況、上場企業数などの項目がカバーされています。国のIR誘致施策も検討の背景が似ているので、施策自体 国と一致しているという感想です)
横浜市の場合、個人市民税以外の歳入を増やす活動や投資を行いつつ借金の圧縮と少子高齢化に対応した歳出をする必要があります。以上を踏まえて各候補者の公約を見てみると、歳出を伴う政策は3候補者共に掲げていますが、歳入を大きく増やすための取り組みはIR(本来はカジノを含むリゾート開発。新聞ではカジノ誘致とされている)以外に具体的なものがないと思いました。
IR誘致のメリットデメリットはさておき、財務的な観点では歳入を大きく増やす具体的な施策が他に出てない以上、IRをやるしかないと判断します。
歳出削減は市長選のたびに職員の生産性向上を公約を上げている候補者が出てきます。でも生産性向上は民間企業でも取り組みに成功しているところが意外と少ないんですよね。なので具体的にどうやるのかと、実行して現場がついてこれるか本当のところを知りたいところですが、これまでの発表されている政策を見る限り実行性については触れてないものが多いので、歳出削減についてはどの候補者を選んでもあまり期待はできなさそうです。
6.最後に
どの候補者が一番良いかは、ここでは結論づけません。最初は一番良いのを選ぼうと思ったんですが、これ最高!という政策がなく決め手に欠けるのが理由です。一方で決められなかった理由に繋がるのですが、今回の市長選が盛り上がってない理由の一つとして、争点と政策がぼんやりしていることがあるんだろうなと思います。しかも争点がカジノ誘致と中学校給食って(笑)
今日書いた財政的な視点では、大きな借金を抱えた横浜市が将来の人口減少に伴う歳入減にどう立ち向かうのか、その限られた歳入の中で市民生活の質の向上をどう図るのかが重要だと考えます。そのことから各候補者の政策を見て財政面の問題解決法としてあまり刺さるものがないと感じるのです。
財政問題を解決するには、現状路線の継続が今回の選挙では現実的な選択肢だと思いますが、歳入を増やす施策はIR誘致というチャレンジ企画だし、それ以外に他に目を引く政策もないことからネタ不足感が否めません。
しかしそれ以外に何か具体的な政策提言が候補者からされているかというと残念ながら無いのが現実です。よって、もし現実路線の継承に賛成できない場合でも、各候補者のバックグランドやこれまでやらかした黒歴史なども調べて、給食の拡充といった今回の争点と言われているものにつられることなく、投票権のある我々は長期的な横浜市存続に貢献するより良い市長を選ぶために考え、投票所へ足を運ぶのが良いのではないかと思うのです。53年後、横浜市の借金が果たして無くなっているか、自分が生きてるかですら分かりませんが、振り返って新市長の在職期間4年を無駄にしたなーとは思いたくないですし。ところでなんだ、この手詰まり感ww
(2017年7月19日追記。駄文を最後まで読んでいただき有難うございます。あくまで財政状況を軸足にしたブ分析ですが、各種メディアで報道されない財政的な現状を踏まえて投票の判断材料になれば幸いです。改めて各候補者の政策を再掲しますので、ぜひ内容をご覧いただき、皆さまの判断の一助になれば幸いです。)
3候補者の公約(あいうえお順)
- 伊藤大貴氏
横浜市長選2017政策集「主要政策」 | 横浜市会議員(緑区) 伊藤ひろたか
- 長島一由氏
https://www.nagashimakazuyoshi.com/policy